Trist

なぜ、Tristが学校を作ったのか? 「学び合いのコミュニティ」が目指すものとは

2017-11-21

あなたの隣の家のパパ・ママが、どんな仕事の経験があり、どんなスキルを持っているか、あなたは知っていますか?

「毎朝スーツを着て出かけていくのを見るけれど、どんな仕事をしているかはよく知らない」
「昔は働いていたらしいけれど、今は専業主婦で、仕事の話なんてしたことがない」
「いい人だけど、話すのは子どもや日々の生活のちょっとした話ばかり」

きっとそんな方も多いのではないでしょうか。

Tristがはじめた「Tristの学校」が目指すのは、そんな、近くにいる誰かの素敵な知識やスキルをシェアして、暮らしを豊かにする、地域に根づいた学び合いのコミュニティ。

なぜ、シェアオフィススペースTristが、そんな学びの場を作ることになったのでしょうか?

Tristの学校の校長を務める菊井に、その設立の経緯や、Tristのビジョンとのつながり、そしてTristの学校に込められた想いについて聞きました。

菊井深雪

フリーランス翻訳家。主に医療の分野の翻訳業務を在宅でするかたわら、流山市内の商店、企業の英語対応をサポートするnagareyama pencils(ながれやまペンシルズ)を主催。
2017年10月には、Tristに集まったフリーランスでチームをつくり、流山市内をターゲットに多種業務を組み合わせたサービスを提供するKALEIDO LABを立ち上げ。
これまでの中央の大手企業を介したサービスの供給とは違う、地域に存在するスキルを地域で消費する「スキルの地産地消」を目指して活動している。2児の母。

新しい学びのコミュニティ、Tristの学校とは

Tristの学校は、シェアオフィススペースTristが提供する、コミュニティに根付いた新しい形の学びの場です。
Tristに集まった、その地域にいるさまざまな職種のプロフェッショナルが、仕事で得た知識やスキルを、先生になって地域のみなさんとシェアしていくということをコンセプトにしています。

具体的な講座の内容としては、講座を行う講師の方の職業に関連付けた講座が多いです。たとえばフリーランスのウェブクリエイターをしながら子育てもしている講師が、子育てへのインターネットの活用方法や、子どもの写真を使ってムービーを作るやり方などを教えたりしています。

普通のセミナーにはないけれども、知り合いにその分野に詳しいパパやママがいれば教えてもらえる、だけどそういう知り合いがいなければなかなか知る機会がない、そういった内容が多いです。

今後は、単にスキルについての講座だけでなく、たとえば看護師のお母さんが講師になって、看護師のお仕事について子ども達にわかりやすく説明する、キャリア教育のような講座も考えています。

現在は流山おおたかの森にある三井不動産レジデンシャルのレジデンシャルサロン内スペースで、土日・祝日を中心に開講しています。

Tristに集まったメンバーのスキルや知識を地域に還元する

Tristの学校の母体である、シェアオフィススペースのTristは、企業に勤めてリモートワークで働く方からフリーランスの方まで、さまざまなメンバーが利用しているのですが、ほとんどが近隣に住んでいる方々です。

Tristを運営していくなかで、ふと、そこに集まった人々を見てみると、本当にみんな、さまざまな専門性やスキルを持っているんですよね。身近に、こんなに多くのプロフェッショナリティを持つ方々がいるんだというのを知りました。

そんなみなさんと話をしていると、仕事をしつつ、なんらかのかたちで地域とのつながりも持てないかと考えている人が多いということがわかってきて。私たちで何かできないかな?と話すことが多くなっていったんです。

最初は学校というコンセプトも固まっていなくて、親子で楽しいイベントをしようなどといった案も出ていたのですが、それじゃあTristらしさがない、ほかのところでやっているのと同じだよねと。

自分たちじゃなきゃ教えられないことってなんだろうという話になったときに、たとえば先ほどのウェブクリエイターの方で言えば、単純なアプリの使い方だったら誰でも教えられるけれど、仕事で使っているプロジェクトマネジメントの技術を家事や家庭運営のマネジメントに活かす、という観点だったら独自性があるね、なんて話になって。

そんなふうに、仕事、家族、そして地域コミュニティの3つの要素を緩やかに並立させるトリニティ・ライフスタイルを目指すという、Tristのビジョンとのつながりを考える中で、地域にいる講師のプロフェッション、つまり職業専門性を活かした講座やキャリア教育といった方向性が見えてきたという感じです。

職業アイデンティティを再確認する機会を提供したい

講師や運営メンバーはほとんどが子育て中のママなのですが、Tristを軸に集まったメンバーなので、仕事に関するつながりが中心にあるんです。

たとえばフリーランス同士で話をしたいということでつながりができたりとか、復職トレーニングを受けに来たとか。そういうコミュニティの中で始まったことなので、ママとしてというより、自分たちの職業や専門性が先にくるんですね。

女性は比較的、そういった職業アイデンティティをあまり意識していない人が多いと思うんです。私の周りにも、Tristに関わることで初めてそれを意識するようになったという人も多い。そういう気づきというか、意識の変わり方がTristの学校でも提供できればいいなと思っています。

講師として教える側も、自分の職業をより意識する、特にコミュニティの中でより意識するようになるし、教わる側も、スキルを持つ職業人として講師と関わることで、そういう人が地域の中にいるとか、実は子どもの同級生の親にいるとか、そういうことを意識できるようになるのではないでしょうか。地域の中に、職業意識を通したつながりを作れたらいいなと思ってます。

私自身も、フリーランスで翻訳の仕事をしているのですが、それまで、地域の中では「2人の子どものママ」として生きていたけれど、それだけじゃないんですよね。
Tristに関わったことで、自分は英語を通して勝負している人間なんだということを自覚できるようになりました。

菊井が講師を務める親子英会話の講座

女性の起業支援の流れなどもあり、スモールビジネスを始めようとしている方にお会いすることもあるのですが、本職とはまったく関係ない事業をしようとしている人が多いんです。「仕事でそんなスキルを持っているのに、雑貨屋をやるの? アロマをやるの?」といったような。

たしかに、アロマも好きで得意かもしれない。でもそのまえに、自分の仕事のスキルはどうなのかと。

たぶん、自信がないと思うんですよね。あとは、仕事を辞めて何年もたっているからもう使えないと思い込んでるとか。そういうことがあるのは仕方ないと思うんですけど、Tristの学校をきっかけに改めて振り返ってもらって、自分がこれまで社会でどんな経験を積んできたかを思い出して、自信を持ってもらう、そういうきっかけになれたらと思っています。

まさにその一例なんですが、予定している講座のひとつで、プログラマのママさんが講師になって、「ママロボットを動かすプログラムを作ろう」というのをやろうとしています。子どもが、コンピュータは使わずに、プログラムを作って、ママに命令を出す。最後にはそれでロボットを実際に動かしてみましょうというものなんですけど。

講師の方は、プログラマとして15年ブランクがあるんですよ。でも、基本的なスキルはしっかりある。ちゃんと学んで、プログラマをやって、それから家庭に入って5人のお子さんを育ててきて。いまはスーパーでパートとして働いたり、ボランティアで小学生向けワークショップの講師をやったりしていらっしゃる方です。

そんな方が今回は、プログラマとして講座を持つ。それが彼女自身にとっても、大きな自信につながるんじゃないかと思っています。

Tristの学校が子どもたちと未来にもたらすもの

Tristに関わっている、あるグラフィックデザイナーの方が、子どもの学校のために広報誌のデザインのボランティアをしているんですが、子どもの友達のあるお子さんから「自分もグラフィックデザイナーになりたい、どうやったらなれるのか?」と相談されたそうなんです。絵を描き続けるだけじゃなくて、こんなことも大事にしてね、なんてことをアドバイスしたそうです。

その人が言っていたんです。自分が子どもの頃に、デザイナーというと、有名なファッションデザイナーとか、そういう人しかイメージがなくて、近所に、地域にいるということはまったく気づかなかったと。そしてそういう身近な人にアドバイスをもらえるかもなんてことも思ってもいなかった。

「デザイナー」とだけ聞くと漠然としていてイメージがわきづらいけれど、普通に仕事としてあるものだし、しっかりとした修行をつめば職業になるじゃないですか。でもそこまでの道筋を見せてくれる人が周りにはいなかったと。

そういう、偉い人がきて教えてくれるのではないけど、地域に住んでいる人に教えてもらえる機会というのは、子どもにとって職業を身近に、具体的にイメージできる助けになれるんじゃないかと思うんです。

私も子どものころに翻訳家になりたいと思ったときは、文芸翻訳しか頭になかったんですよね。翻訳=文芸翻訳だと思ってたんです。

今やってるのは医療分野の翻訳なんですけど、実際、そういった産業翻訳が翻訳という仕事の市場のほとんどです。そういうことを教えてくれる人がもしいれば、途中で挫折したり紆余曲折していなかったと思うし、いろんな選択肢を持って専門的な勉強をしたと思うんですよね。だから、そういう機会ってすごく重要だなと感じます。

デザイナーとか翻訳家になりたいと思いながら、結局公務員になる……みたいな、実際の職業は子どものころの夢とは別に考えるようなこともありますよね。

夢を諦めて仕事、みたいな感じじゃなく、夢を仕事にするためのサポートが、Tristの学校をきっかけにできていったら素敵だなと思います。

Tristの学校がこれから目指すもの

今は講座を開いている場所に合わせたプログラムが中心ですが、今後、ほかの場所でも開講していくことができれば、切り口が増えていくと思います。職業訓練的なものや、大人の女性に向けたキャリア教育などもできるかもしれませんし、今はハードルが高いですが、パパを、男性を巻き込んでやっていけたらと考えています。

男性の理解はすごく大事です。ママが職業を持つひとりの人間たりえるということを、パパに思い出してほしいなと思います。ママの可能性を、押し殺してしまっているかもしれない、ということに気づいてもらえればと。

それから、ママ講師だけでなくて、地域にいるプロフェッショナルで、キャリア教育などに興味のある方を探して、巻き込んでいくということも考えています。たとえば講座の参加者をスカウトして講師になってもらうなんてことも考えています。そんな風に、理念に共感してくれる人を増やして、流山のいろいろな場所にTristの学校を出張開校していけたりしたらおもしろいですね。

Tristの学校はいま、始まったばかりです。運営メンバーや講師も手探りで可能性を探っています。Tristの学校が地域に根づき、コミュニティをより豊かにしていくためには、参加してくださる方の踏み出す一歩が欠かせません。

単にスキルを学びたいということでもいいですし、講師と話してみたい、自分のキャリアを考えてみたいということでも構いません。ぜひ、多くの人に足を運んでもらえればと思います。

Tristの学校
https://www.school.trist-japan.com/